2009年09月12日

ウルヴァリン:X-MEN ZERO(X-MEN ORIGINS: WOLVERINE)

▼「ウルヴァリン:X-MEN ZERO(X-MEN ORIGINS: WOLVERINE)」
監督:ギャヴィン・フッド
2009年/アメリカ/108分


「世界一セクシーかつ、不死身でミステリアスな男」誕生の物語。ふたつの面を併せ持つローガンというキャラクターの「深み」とは? 知っておきたい物語づくりの基本〜「兄弟」編〜



■ウルヴァリンだけに人工の匂いがプンプン


特殊能力を持ったキャラクターが多数登場する「X-MEN」シリーズの最新作が登場です。


最新作ですが内容は映画の題名にあるとおり「X-MEN」シリーズの原点の物語となっています。


原点を描く上でクローズアップされるのは、なんといっても主人公のウルヴァリンです。


驚異的な治癒能力と超人的な五感を持ち、自身の体内には地上最硬の金属であるアダマンチウム製の骨格を持つウルヴァリンは、自分が誰だが知りません。


特殊能力は才能としても、アダマンチウム製の骨格には明らかに人工のニオイがします。


なぜウルヴァリンだけに人工の匂いがプンプンするのでしょうか?


その謎は映画ではこれまで明らかにされていませんでした。


もしもウルヴァリンが特殊能力を持つだけなら、さほど謎ではありません。特殊能力を持つがゆえ人を避けてきた過程で、たまたまなんらかの事故にあい、記憶を喪失したとも考えられるからです。


でも、たまたまアダマンチウム製の骨格になったとは考えにくいですよね。


これぞ、魅力的なメインキャラクターの条件なのです。



■ ミステリアスな男は魅力的


魅力的なキャラクターの条件のひとつは、謎です。ミステリアスな部分に興味をそそられるからこそ、観客は主人公に惹かるのです。


仮にあなたが女性としましょう。ふたりの男性にデートに誘われたらどうしますか?


ひとりは隣の家に住んでいる幼馴染のAくん。


ひとりは昨日知らない町に用事に出かけて道に迷ったときに助けてくれたBくん。


おそらく、あなたはBくんとのデートに心がひかれるでしょう。だってAくんのことはよく知っていいますが、Bくんのことはほどんど知らないからです。


さて、そういうわけでミスター・ミステリアスであるウルヴァリンの過去が明らかになるときけば「X-MEN」シリーズのファンは観ないではいられません。


「20世紀少年」の「ともだち」は顔をマスクで覆ってその正体をなかなか知らせないことで読者や観客を中吊り状態(サスペンス)にしましたが、「X-MEN」シリーズではウルヴァリンの活躍を描けば描くほど、観客が彼の過去への好奇心をどんどん膨らませるよう仕掛けました。



■物語づくりの方程式が紡ぎ出す答えとは?


ストーリーを通して謎を深め、いよいよその謎を解くことでキャラクターの内面を浮き彫りにする。


「X-MEN」シリーズが用いたこの手法は物語の定石ではありますが、これほど強力な物語づくりの方程式はほかにありません。


方程式が紡ぎ出す「感動という答え」こそが「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」なのです。



■ オープニングクレジットのモンタージュに兄弟の歴史が集約


さて肝心の内容ですが、まずセットアップで幼いローガン(ウルヴァリン)がはじめて自身の特殊能力を発揮する出来事が描かれます。そこには今作品の主要キャラクターとなる兄ビクターの姿も。


そしてオープニングクレジットが流れるのですが、なんとその背景シーンには弟ローガンと兄ビクターのこれまでの足跡がモンタージュで観客に知らされます。


モンタージュとは一連の短いシーンのことを示し、一般的にはシーン全体で1つの情報を伝えます。今作の例でいえば、弟ローガンと兄ビクターのふたりが150年以上も兵士として共に生きてきたという情報です。


モンタージュには南北戦争、第一次大戦、第二次大戦、ベトナム戦争で戦ってきた兄弟の歴史が集約されています。


このモンタージュで示される情報が公式サイトにバッチリ記されているのには驚きました。


だってウルヴァリンの過去という一番のおいしいところは、映画を観るまでわからないように秘密のベールに包み込んでおいたほうがいいんじゃないかと思ったからです。


しかも、映画ではオープニングクレジットでその情報を提示しているのです。


モンタージュの内容だけでひとつやふたつの映画が作れちゃうんじゃないかなと思います。


もしも宣伝でもこのあたりのことを伏せていたら、映画を観はじめた観客はオープニングクレジットで「わぉ! ウルヴァリンって見た目と年齢が違うんや! しかも歴史上の幾多の戦場を駆け抜けた兵士やったんや! これからはじまる物語はいったいどうるんやろう」と期待が膨らんでテンション上がりまくったことでしょう。


でも映画を観終わると、なるほどこの内容ならウルヴァリンの兵士としての過去はオープニングクレジットでモンタージュしたほうがいいというのがうなづけます。


さて、どの戦争でもふたりは死にません。だって優れた戦闘能力に加えて驚異の肉体再生能力を持つ二人は、たとえ銃殺刑にされてもしばらくすると生き返るのですから!


肉体再生能力?



■ 能力の活かし方次第で善にも悪にもなる


もしも欧米の映画やドラマで不死身のキャラクターが出てきたら、彼・彼女はたいていメインキャラクターです。そこには重要な意味が秘められています。


たいていは不死身とはいわず「再生能力」があるとされますが、そういったキャラクターですぐに思いつくのはアメリカンドラマ「HEROES」のクレアです。


クレアは「HEROES」に登場する能力者たちのなかでも「特別」です。なぜならクレアの能力は「再生」だから。


クレアは10メートル以上の高さから落ちても、首に木の枝が深く突き刺さっても、弾丸を撃ち込まれても、しばらくすると生き返ります。


ローガン(ウルヴァリン)も、たとえ銃殺されても生き返ります。


ふたりとも「再生」、つまり「甦り」の能力を持っています。その意味するところは「復活」を象徴するキャラクターであるということです。


「HEROES」と違うのは「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」では復活を象徴するキャラクターが二人いること。


ひとりは「善」を象徴する弟ローガン。


もうひとりは「悪」を象徴する兄ビクター。


「回復=復活」という特殊能力を持つ特別なふたり。能力は同じでも、その用い方如何では善にも悪にもなることを私たちに教えてくれます。


ほら、例えば西部劇でアイテムとして登場する拳銃をギャングが持てば悪になりますが、保安官が持てば善になりますよね。


拳銃は極端な例ですが、アイテムそれ自体は善でも悪でもなく、あくまでそれを使う人間によって善か悪かが決まるというのが基本です(もちろん悪徳保安官というキャラも映画では定石ですが)。


そしてローガンも善を象徴するキャラクターではあっても、戦場では自らの戦闘能力を発揮して闘争本能をむき出しにしたり、恋人を失って復讐を誓って突き進んだりと、ずいぶん人間くさい面をもっています。


このようにローガンは基本的には善を象徴するキャラクターなのですがその行いと歩みは人間味に溢れています。けっして品行方正な聖人とはいえません。


でも、だからこそ観客はそこに自分と同じものを感じることができるのです。



■ 物語づくりにおける「兄弟」


ちなみに善を象徴するキャラクターが弟で、悪を象徴するキャラクターが兄ビクターというのは、人類初の兄弟としても有名なカイン(兄)とアベル(弟)を思い起こさせます。


兄カインは農夫で、弟アベルは羊飼い。ある日ふたりは神に供え物をします。しかし受け入れられたのはアベルの供え物だけでした。


兄カインは弟アベルを憎み、妬み、殺してしまいます。


神に「弟アベルは、どこにいますか」と尋ねられたカインは「知りません。わたしが弟の番人でしょうか」と答えました。(創世記4章9節)


これが人類初めての嘘だといわれています。「嘘つきは泥棒のはじまり」といいますが、ほんとうは「嘘つきは殺人のはじまり」というよりも「殺人と嘘はセット」だともいえるでしょう。


またカインとアベルから時代が下がったあたりにはイサクの息子である兄エサウと弟ヤコブが登場します。弟ヤコブは策略を練って、通常なら兄が相続するはずだった「長子の特権」を手に入れます。


これによってエサウの怒りをかったヤコブは逃亡生活を余儀なくされるのですが、長い年月を経たのちに再会して仲直りします。


アメリカンドラマ「HEROES」にも兄弟が登場します。権力を欲し己の野望に燃える兄ネイサンと、己の果たすべき使命を模索する弟ピーターです。


兄ネイサン・ペトレリは元検事で下院議員当選をめざす野心家。弟ピーター・ペトレリは自分が果たすべき使命を模索している看護士。


兄は当選のためにマフィアともパイプを持ち、己の野心のためには弟ピーターを犠牲にすることを容認するなどの「悪」を垣間見せますが、やがて弟ピーターと共に世界を救う決心をします。


このように聖書のカインとアベル、エサウとヤコブ、そして「HEROES」のネイサンとピーターといった兄弟間みられる確執や対立、そしてときに和解は、定番として物語の中に組み込まれることがよくあります。もちろん「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」もその例にもれません。


ということはローガンとビクターの関係は……といろいろ推測できるかもしれませんね。


少し話がそれましたが「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」には兄弟の対立という基本構造がしっかりとあって、さらに兄弟が復活を象徴するキャラクターであるということをおさえておいてください。



■ ふたつの面を併せ持つローガンというキャラクターの「深み」とは


さらにローガン(ウルヴァリン)がけっこう髯もじゃのワイルド系で、白いタンクトップで激しいアクションをみせてくれるのも、どことなくイエス・キリストをおもわせもします。


イエスは大工の息子で、各地を歩いて伝道活動をしました。大工仕事をしていたぐらいですから、今でいえばタンクトップやTシャッツ姿で木材を運んだりする屈強な男であり、子分(弟子)を12人連れていたとなればもう立派な棟梁の風格があったとも考えられます。


よく描かれるイエスの姿は柔和な聖人といったものですが、実際の姿に近いものを彷彿とさせるローガン(ウルヴァリン)のキャラクター。


実は、そこには私たち自身の姿をも反映されているのです。


これまでの「X-MEN」シリーズではウルヴァリンは自分が何者であるか知りませんでした。


どこで生まれ、何をしてきて、どうして今ここに自分がいるのか。自分はこれからどうしたらいいのか。


なにもわからずにいるローガン。それはまさに道に迷ったような状態です。キリスト教の一派ではときにノンクリスチャンのことを「求道者」と呼ぶことがありますが、ローガンはいわば「迷える子羊」なのです。


聖書で迷える子羊といえば、神から離れてしまった人間のことですね。


そしてたった一匹の迷える子羊を探してくれるのは羊飼い(神)です。


さぁ思い出してください、弟アベルの職業はなんでしたか? そうです。羊飼いですね。


弟ヤコブの職業はなんでしたか? そうです。羊飼いですね。


つまりローガンは「回復=復活」によってイエスを象徴すると同時に、「道を失った者=迷える子羊」によって人間をも象徴しているのです。


もちろんローガンが持つ特殊能力は人間だれにでも与えられる天からの「ギフト=タラント」を象徴しています。


これだけみてもローガンというキャラクターがいかに「深い」かがおわかりいただけるでしょう。



■ 愛を失った悲しい男が誕生するまでの物語


さてここで原題に注目です。原題は「X-MEN ORIGINS: WOLVERINE」。


復讐を誓い、アダマンチウム製の骨格を移植する決意をしたローガンは、俺はウルヴァリンだ、と宣言します。


これは恋人ケイラから教わった、愛を失った悲しい精霊の名前です。


善の要素を持ったローガンが復讐の念にとりつかれたとき、これまでの自分を捨て、新たな自分「WOLVERINE」と名乗るローガン。


アダマンチウム製の骨格を移植しウルヴァリンと名を変えた男が歩みはじめた道は、後に「X-MEN」の一員となる道でもありました。


だから「X-MEN ORIGINS: WOLVERINE」なのですね。


「X-MEN」シリーズは「愛を失った悲しい男」が愛を取り戻どすまでの物語。


そして「X-MEN ORIGINS: WOLVERINE)」は愛を失った悲しい男が誕生するまでの物語です。



■ その他


深く「せつない」男のドラマが展開する「X-MEN ORIGINS: WOLVERINE」の見所のひとつはバイクとヘリコプターの攻防戦です。


かっちょいい「画」というのをわかってらっしゃる! と思わずにはいられないアクションショーンの一方で、ちゃぁんと笑いの「間」も程よくあります。


もしも自分んち(家)の納屋に全裸の男が侵入してきたら?


もうゼッタイにアブナイ人だと思うでしょ?


でもね、ヒュー・ジャックマンみたいにメッチャ男前だと、コミカルになるんですよ。こういう笑いの「間」は大事です。作品にテンポが生まれてシリアスなシーンとの対比でますます作品の世界観にメリハリが生まれるからです。


ほかにも年齢に関する細かいボケみたいなところもチョイとあります。


なにせローガン(ウルヴァリン)は南北戦争前から生きてますから。そんじょそこらの爺ちゃんだってウルヴァリンにとってみたらまだまだ子供。


そんなわけだから「X-MEN」シリーズでウルヴァリンは仲間のスコット(サイクロップス)を「フンッ、この若造が」みたいな扱いをすることがあるんですね。もっともスコットとは恋敵みたいなところもあるので、対抗心のあらわれでもあるかと思いますが……。


ちなみにまだ自分の特殊能力をうまくコントロールできない頃のスコットも登場しますヨ。


「回復=復活」という、ある意味人間を超越したキャラクターでありながら、最も人間くさい面も併せ持つローガンがウルヴァリンとなる物語を、アナタもぜひご覧になってみてくださいね。おすすめです。


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ウルヴァリンってイタチ科クズリ属の哺乳類(クズリ:小さいが獰猛な動物)のことだったり、アメリカ海軍の訓練用航空母艦名だったり、ミシガン州の愛称だったりします。


「X-MEN」でのウルヴァリンはクズリの突然変異体であるという設定が定説のようです。


ちなみに本名はジェームズ・ハウレット。ローガンは通称です。


そんなウルヴァリン役のヒュー・ジャックマンが来日。


お寺だか神社だかでお祈りして願ったのは、家族の幸せ。


築地ではお店の料理人たちひとりひとりと握手。紳士で家族思いで世界一セクシーな男。


「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」ではそんな彼のたくましい姿がたくさん見れるんですから、こりゃぁヒット間違いなしですネ。


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▼特殊能力者が登場する作品の謎を解くカギは3つ。
 「タラント」「アガペーの愛」「復活」。

 
posted by タカ at 00:29 | Comment(0) | TrackBack(40) | ウルヴァリン:X-MEN ZERO | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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