2008年07月12日

ブラッド・ダイヤモンド(BLOOD DIAMOND)

映画「ブラッド・ダイヤモンド(BLOOD DIAMOND)」
監督:エドワード・ズウィック
アメリカ/2006年/143分

B000SADJZ0ブラッド・ダイヤモンド
チャールズ・レビット
ワーナー・ホーム・ビデオ 2007-11-21

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●知恵者ソロモン王。元漁師の弟子たち。憎まれ収税人マタイ。求道者と帰るべき場所。イエスとその弟子で読み解く「人間をとる漁師」の意味とは?「金とタブー」に斬り込んだきわめて稀なアメリカ映画。

ストーリー(概要)
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1999年。アフリカのシエラレオネは内戦が続いていた。
村が反政府軍RUFに襲撃され、家族と引き離されたメンデ族の漁師ソロモンは、ダイヤモンド採掘場で働かされているときに大粒のピンク・ダイヤモンドをみつけて地中に隠す。
それを聞きつけたダイヤの密売人アーチャーは、ソロモンに近づいてダイヤモンドを手に入れようとする。ソロモンからダイヤモンドの隠し場所を聞き出すため、アーチャーはジャーナリストのマディーの助けを必要とする。

主な登場人物の紹介
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△ダニー・アーチャー
ダイヤ密売人

▽マディー・ボウエン
ジャーナリスト

△ソロモン・バンディー
漁師


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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●知恵者ソロモン王。元漁師の弟子たち。憎まれ収税人マタイ。求道者と帰るべき場所。イエスとその弟子で読み解く「人間をとる漁師」の意味とは?「金とタブー」に斬り込んだきわめて稀なアメリカ映画。

■ ダイヤモンドは永遠の……紛争の種!?

宝石業界はエンタテイメント業界にとってかなりのスポンサーだという。スポンサーのご機嫌をそこなう内容の作品など、ふつうだったらだれも作りたがらない。

たいていのハリウッド映画でダイヤモンドが登場するとき、その役割は「マグフィン(Maguffin)」に限定する。マグフィンとは、悪者が欲しがっていてヒーローが持っているものを指す。

マグフィンはあくまで登場キャラクターたちが行動を起こす動機の役割というわけだ。

しかしながら「ブラッド・ダイヤモンド」では、マグフィンであることのほかにも意味がある。それは宝石業界の内幕(黒幕)に斬り込んでいるということだ。

ニコラス・ケイジ主演の映画に「ロード・オブ・ウォー(LORD OF WAR)―史上最強の武器商人と呼ばれた男―」という作品がある。これは武器ビジネスで、まさにアメリカ合衆国ならではの題材である。しかしその内容から、アメリカ国内での製作資金調達は困難だったという。なぜならアメリカ合衆国は世界最大級の武器ビジネスの当事国であるからだという。

早い話が武器ビジネスの話も宝石業界の話も、アメリカではタブーなのだ。タブーというのは、言い換えれば最も顕著にその姿の本質を表す可能性が高い題材だということだ。

題材としてはおいしい。けれどリスクはとりたくない。だから、ふつうならお気楽極楽恋愛物語(例「ホリディ」を作って無難に儲けようと考えるもの。ところが「ブラッド・ダイヤモンド」はオブラートに包んでいるとはいえ、宝石業界を題材にとりあげている。

これがどのくらいリスクがあるのか。はたまたリスクとみせかけて、実はそのほうが「おいしい」のか。そのへんのことはよくわからない。

たしかなことは、アメリカ映画では稀な題材――宝石業界を題材としているということだ。


■ ソロモン王の知恵「赤ん坊のほんとうの母親」

主要登場キャラクターのひとりであるソロモン・バンディーについて考えてみよう。

ソロモンといえば、古代イスラエルの王で「ソロモンの栄華」として名高い。
イスラエルの王ソロモンは、神から望むものはなにかといわれ、知恵を求めた。さて、その知恵の深さを知るのにちょうどよい話がある。

ある日、ソロモン王のもとに二人の女とひとりの赤ん坊が案内されてきた。二人の女はどちらも自分こそが赤ん坊の母親だと言って争った。

そこでソロモン王は家来に刀をもってこさせ、赤ん坊を半分に切って二人に半分づつ渡しなさい、と命じた。

するとひとりの女は、赤ん坊を殺さないでその女にあげてください、と言った。

ソロモン王はそれを聞いて「切るな」と命じ、赤ん坊を生かしてくれと頼んだ女が本当の母親であることがわかったのでその女に返すように、と言った。

ソロモン王の知恵の噂は広まり、シバ(イエメン)の女王も訪ねてきてソロモン王の知恵の深さを褒めたたえたという。

「ブラッド・ダイヤモンド」のソロモンは、古代イスラエルの王ソロモンをイメージさせる名前であることから、物語構築上のキャラクターの役割では善人である。


■ いなくなった羊・なくした銀貨

聖書には「いなくなった羊」のたとえ話がある。
百匹の羊の飼い主がある夜、羊が一匹いなくなっているのに気づいた。険しい岩のひつつひとつをランプを照らして探し、迷った羊をみつけると肩にのせ、家に帰って村人と一緒に喜んでもらった。

ほかに「なくした銀貨」のたとえ話がある。
十枚の銀貨を持っている主婦が、ある日一枚なくしたことに気づいた。家の中の隅々までランプを照らして注意深く探し、なくした銀貨をみつけると友人を招いて一緒に喜んでもらった。

また本誌でも幾度となく紹介した「いなくなった息子」いわゆる「放蕩息子」のたとえ話もある。これらのたとえ話は、神は離れていった罪人を探してそれが戻ってくると、天国は喜びでいっぱいになることを教えてくれている。

ソロモン・バンディーは引き離された家族を探しだそうとする。特に、医者を目指して勉強中の息子を取り戻すべく、危険をかえりみずにどこまでも探しつづけるのである。


■ ソロモンが漁師である理由

ソロモン・バンディーは村の漁師だ。実はこの設定にも意味がある。

ある日ガラリヤ湖の岸辺を歩いていたイエスは漁師に、これからは人間をとる漁師にしてあげよう、と自分についてくるよう言った。

こうして漁師ペテロ、アンデレ、ヨハネ、ヤコブはイエスの弟子になった。

初期キリスト教会の重要な人物とされるイエスの12弟子。そのうちの数人は元漁師なのだ。

「いなくなった羊・なくした銀貨」そして文字どおり「いなくなった息子」を探す漁師ソロモンというキャラクター設定には、このようにキリスト教の背景を読み取ることができるのだ。

ちなみにイエスの12弟子のひとりマタイは収税人だった。ヘロデ王のために税金を集めていたので、ユダヤ人からは特に憎まれていた。

収税人はただでさえ皆から嫌われるのに、ユダヤ人からは特に憎まれているマタイ。彼は「ブラッド・ダイヤモンド」でいうと、ダイヤの密売人アーチャーだ。

収税人と漁師。ともにイエスの12弟子となった。

ダイヤの密売人と漁師。目的は違えど、共にいなくなった者をみつけるために旅をする。


■ 求道者アーチャーと人間をとる漁師

そのふたりの出会いは最悪だった。ジャーナリストのマディは記事の裏付けが必要でアーチャーに近づいた。アーチャーはそれを疎ましくおもい、距離をとろうとする。

しかし、ピンク・ダイヤモンドを手にいれるためにはジャーナリストであるマディの力が必要だ。

アーチャー、ソロモン、マディは行動を共にして徐々に信頼関係を築いていく。

そもそもアーチャーの願いは自由を得ること。それをかなえてくれるのがピンク・ダイヤモンドだ。

ピンク・ダイヤモンドを手に入れて金が手に入ったらどうするのか? 家族を持つのか? というソロモンの問いにアーチャーは、たぶんそれはない、といった意味の返事をする。

それをきいたソロモンは、理解できない、と言う。

アーチャーは自由を欲している。まずは自由を得て、その先はどうするのかわからない。たとえ話でいえば、迷える子羊だ。行くべき道を探している。求道者だ。(archer:(弓の)射手。弓術家の「弓道」とかけているわけでない)。言い換えれば、帰るべき場所を求めている。

求道者アーチャーはソロモンとマディと出会い、共に行動するうちに信頼関係を築くようになる。特にマディと心を通わせたことで、アフリカを出たあとに行くべき場所・帰るべき場所をみつけることができるようになる。

漁師ペテロ、アンデレ、ヨハネ、ヤコブたちは、イエスと出会い、いくべき場所・帰るべき場所を得た。そして、自分たちの他にも帰るべき道をさがしている者を探し出す方法を教えようと言われてイエスの弟子になった。

だから、人間をとる漁師にしてあげようとイエスは言われたのだ。


■ その他

武器、宝石、石油、ガス……。大金が生まれるところには紛争がおきる。古今東西どこでも例はある。

「ガリヴァー旅行記」でも馬の国では人間はおろかな生き物とされており、その理由のひとつが、泥だらけになって光る石をあさり、石がみつかるとお互いに殴り合って争いつづけるからだというのがある(記憶があいまいなため正確ではないかもしれない)。

物語構築上も「金」は強力な動機だ。なぜなら、日常のだれもが多かれ少なかれ「金」に関わっているからだ。

そもそも人間の欲求の数は大別すると、たいした数にはならない。

そのなかには「金」以外であるかのように装って欲望を扱ったほうが「金」になりやすい欲求がある。それが「恋愛」だ。

実際には「恋」にも「愛」にも「金」は関係するが、エンタテイメント作品をつくる上では「金」というキーワードを見えないようにするのもひとつの方法だ。

だから「恋愛適齢期」や「ホリディ」の登場人物たちは、売れっ子脚本家だったり、レコード会社の社長だったり、映画予告編制作会社の社長だったり、イギリスの有閑階級だったりする(中流階級も登場するが)。つまり、だれもお金には困っていない。

「金」というと下品に聞こえるかもしれないので経済と言い換えよう。

あなたが恋人に求めるものはなんだろう?

包んでくれるやさしさ、というかもしれない。しかし、乗り心地のいい高級車を持っていたほうがいいし、海外旅行にもたくさん連れて行ってほしいし、クリスマスにはブランド品のバッグもほしいし、婚約することになったらダイヤモンドの指輪がほしいと思うかもしれない。

恋人や結婚相手を選ぶ条件のひとつにはもちろん「経済力」がある。それを象徴するものが高級時計だったり高級車だったり大企業の社員だったり世田谷の一戸建てだったりする。

そういう「経済」を言いはじめたらキリがないので、登場人物たちを皆お金持ちに設定する。「経済」という要素を抜きに恋愛をはじめられる人などめったにいないのだから、これこそ「夢の恋愛物語」というわけである。だから「恋愛適齢期」や「ホリディ」はヒットする。

っていつの間にか違う作品の話になっていた。「ブラッド・ダイヤモンド」のレビューのはずだったと思ったが……。

まぁ、つまりはこういうことだ。

「金」と「タブー」。

これほど人間の欲求を表現しやすい題材はめったになく、だれもが避けてきた道を突っ走った「ブラッド・ダイヤモンド」はたいしたものである。

「ロード・オブ・ウォー(LORD OF WAR)」と併せて、きわめて稀なアメリカ映画である。


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