2008年07月11日

フライトプラン(FLIGHTPLAN)

「フライトプラン(FLIGHTPLAN)」

監督:ロベルト・シュヴェンケ
アメリカ/2005年/98分

B000OPPTM0フライトプラン
ブライアン・グレイザー
ブエナ ビスタ ホーム エンターテイメント 2007-06-20

by G-Tools


●サスペンスと女優が目玉。後味の悪さは一級。文字通りのハリウッド版「劇団ひとり」? 実は風刺作品か? 聖書の「迷える羊のたとえ話」で解説。

ストーリー(概要)
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夫の死を悲しむカイルは6歳の娘と共に、夫の棺を載せた最新型エアジェットでベルリンからニューヨークへ向かう。
高度一万メートルの上空でカイルの娘が姿を消す。だれひとりとして娘の姿を見ていないと言うが、カイルは機内を探しまわる。


主な登場人物の紹介
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△カイル
 女性。航空機設計士。

△ジュリア
 少女。6歳。カイルの娘。

△カーソン
 男性。航空保安官。


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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●サスペンスと女優が目玉。後味の悪さは一級。文字通りのハリウッド版「劇団ひとり」? 実は風刺作品か? 聖書の「迷える羊のたとえ話」で解説。

〈注:ちょっとネタバレしてます〉

■ 迷える羊のたとえ話

カイルはいなくなった娘ジュリアを探します。たとえ飛行機の乗員・乗客のだれもジュリアを見ていないと言っても、カイルはいなくなった娘を探します。

さて、新約聖書のルカによる福音書15章1節〜7節に「迷える羊」のたとえ話があります。

これは、百匹の羊を持っている者がそのうちの一匹がいなくなったら、九十九匹を野原に残しておいて、いなくなった一匹を見つけるまで探し歩き、見つけたならば喜んでそれを自分の肩に乗せて家に帰ってきて友人や隣人を呼び集めて一緒に喜んでもらうでしょう、というお話です。

このたとえ話では、羊飼いはイエス、迷子の羊は創り主から離れてしまった人のことを表しています。

99匹の羊と1匹の羊ではどちらを取るべきでしょう?
たいていの人は99匹でしょう。

実は、羊は弱くて臆病ですが、群れを作っているときは弱い羊を中心に円を作り、体が大きく強い羊が外側をかためます。そのため群れを作っている99匹の羊は外敵に襲われる危険は小さいのです。


■「飛行機の乗客は400名以上」と「娘ジュリアひとり」

カイルは機内を探し回ります。客室だけでなく、貨物室や、家でいうなら天井裏や床下に入り込んで探します。当然、ひとりの乗客であるカイルがそんなところまで入り込むのは、当人だけでなく他の乗客の安全にかかわることです。そのためなのでしょう、カイルの職業が航空機設計士となっています。

航空設計士であり搭乗しているエアジェットを設計したうちのひとりであるカイルは、機内のどこをどういじれば機体にどのような影響が及ぶのかを熟知しています。

機長はカイルひとりの行動が他の乗客すべてを危険にさらしていると言います。たしかにそのとおりです。ですがカイルはカイルなりに、自分が機内の隅々まで探しまわっても乗客400名以上が危険にさらされる危険度は低いと思っているようです。

航空機の専門家であるカイルの、このような「読み」は航空機という機械については当たっているのでしょう。しかし航空機については専門家でも、人間については素人です(普通の人と同じです)。


■ 母子の愛に素直に感情移入しにくい理由は……。

娘を探すことに一生懸命のカイルは、乗客のひとりが娘を誘拐したに違いないといいます。その乗客のひとりとはアラブ系の男性です。問題の時刻にはホテルにいたというこの男性は、見せる義務はないにもかかわらずホテルの領収書を見せてあげますが、他の乗客たちの疑いの目に晒されます。

また、カイルは操作盤をいじってすべての客席の酸素マスクを放出させたり、機内の電気を消したりします。
これらの行いがたとえ航空機の飛行に支障がなくても、乗客にしてみればもうパニック状態です。心臓の弱い人はそれだけで心臓発作を起こすかもしれません。興奮した乗客が暴れだすかもしれません。

たとえ航空機に問題はなくても、人間には大問題なのです。

そういった意味で、一見すると聖書の「迷える羊」を彷彿とさせながらも、他の乗客のことなど気にかけていないことが浮き彫りになってしまっています。

いなくなった娘を探すためということでかなり大目にみたとしても、他の人を陥れたり、危険にさらしたりする主人公を応援することはかなり難しいでしょう。


■ ペイオフが解消されない

ハリウッドの脚本術のひとつに「フォーシャドゥイングとペイオフ」というものがあります。フォーシャドゥイングとは、出来事をセットアップするために使われる視覚的手がかりやダイアローグ、もしくは後のストーリーでペイオフされる情報のことをいいます。

つまり「前フリ」があって「オチ」がある、といったようなものだと思ってください。

さて、これをふまえたうえで次の2点について「なるほど」と観客がうなずくようにはなっていません。

・なぜカイルの家族でなくてはならなかったのか

・なぜアラブ系男性は誘拐犯だと決めつけられたのか

例えば推理小説にはミスリードというものがよく使われます。これは、読み手の視点を核心からそらすために作り手が仕掛けるトラップみたいなものです。ミスリードは、謎が解けたあとに観客が納得できる程度のものでなければなりません。

ミスリードがあまりに幼稚だったり、突拍子もないものだったり、そもそもミスリードとして成立していないようなものだったりしたら、推理作品とは認めてもらえません。

「フライトプラン」はアクション・サスペンスと銘打っていますから厳密にはミステリーではないとはいえ、ミスリードがとってつけた程度のもので、作品を見終わってもしっくりしないものとなっています。


■「サスペンス」と「女優」が目玉

サスペンスとは「宙吊り」にすること。謎を提示して観客が答えを知りたいと思わせつづけることで作品への興味を繋ぎとめておくことです。そういう意味でのサスペンスは成功しています。

主人公カイル役には2度のオスカー受賞女優であるジョディ・フォスター。3年ぶりの主演作品です。

しかし「サスペンス」と「女優」が目玉の今作は、他の要素がおざなり(その場かぎりのいいかげんに物事をすませること。はいいかげんだけど、とりあえず行動を起こします)となっているといえます。


■ 実は風刺作品?

ベルリン発ニューヨーク行のエアジェット。ヨーロッパからアメリカ大陸に向かう飛行機です。故郷に戻るカイルはアメリカ人という設定です。

国際線ですから様々な国籍・人種・民族の方々が搭乗しています。そんな密室(圧力鍋効果がある)のなかでアメリカ人であるカイルが乗客をパニックに陥れてもなりふりかまわずに己の目的を果たすために突き進む姿は、観客に「とある国」の姿を思い起こさせます。それはまるで文字通りのハリウッド版「劇団ひとり」と例えることもできます。

「航空機」を「世界」と捉えてみると、ひとりの信念・正義のために他の人々の間に亀裂が生じたり、危険が及んだりする世界の縮図が描かれているようでもあります。

やがてサスペンスの宙吊りの糸がプツンと切れたとき、人々を危険に陥れるのは「航空機」という「世界自身」だという、なんの解決にもならないオチとなっています。

航空機という名の世界をいかに安全に平和に運行させるか? という課題に対して、世界を否定してしまったのではもうどうすることもできません(これなら宇宙人のほうがまだマシだった?)。

有名な「迷える羊」をモチーフに母子の愛を描いていそうで、実は「迷える羊」での99匹の安全を思うあたりを捻じ曲げているかのような作り方はマイナスですね。

それは「母子の愛」という名のガラスを曇らせているかのようで、観終わったときの後味の悪さは一級です。


■ ひとこと

乗客・乗員の誰かが娘ジュリアを見ていたら? 

カイルが機内で眠らなかったら?

このような疑問が浮かんでもそれを解決する答えは用意されていません。ミステリー作品として捉えてしまうと、ご都合主義のひとりよがりな作品という印象を抱くでしょう。

これは風刺作品なの? と思ってしまいますが、どうやらそんなつもりで作った作品ではないところが怖いところですね。

ラストでカイルは自信満々で、大仕事をやり切った感を猛アピールしまくりますが、その態度こそが問題なのでは? と思わずにはいられなくなる方も多いのではないでしょうか。

やはり風刺作品なのか……?

飛行機マニアにはたまらんでしょう。


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