浦沢直樹の漫画『20世紀少年』『21世紀少年』(小学館)
★原作漫画のレビューです
「よげんの書」はなぜ「よげん」が「ひらがな」なのか。
「20世紀少年」が漫画におけるカンヌで賞を受賞ことには、作品を読み解くおおきなヒントがある。
だれも教えてくれない「20世紀少年」とキリスト教文化の関わり。
![]() | 20世紀少年―本格科学冒険漫画 (1) (ビッグコミックス) 浦沢 直樹 by G-Tools |
ストーリー(概要)
―――――――――――――――――――――
1970年頃、少年ケンヂとその仲間たちは秘密基地で「よげんの書」をつくる。
1990年代の後半、世界各地で起こる異変が「よげんの書」のとおりであることに気づいた、ケンヂは「ともだち」がそれに関わっていることをつきとめる。
主な登場人物の紹介
―――――――――――――――――――――
△ケンヂ(遠藤健児)
▽遠藤カンナ
△オッチョ(落合長治)
▽ユキジ(瀬戸口雪路)
△ヨシツネ(皆本剛)
△マルオ(丸尾道浩)
△モンちゃん(子門真明)
△神様(神永球太郎)
コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
――――――――――――――――――――――
「よげんの書」はなぜ「よげん」が「ひらがな」なのか。
「20世紀少年」が漫画におけるカンヌで賞を受賞ことには、作品を読み解くおおきなヒントがある。
だれも教えてくれない「20世紀少年」とキリスト教文化の関わり。
■ 壮大な物語
浦沢直樹の漫画の特徴のひとつは登場人物が多く、物語の舞台が数十年にわたる壮大なことにある。
20世紀少年もそういった特徴を持ち、1960年代の後半あたりから2018年頃までの壮大な物語であり、登場人物の数も多い。
物語の謎を解く鍵は少年時代のケンヂとその仲間たちが秘密基地を作って遊んだ1970年前後にあるため、漫画の展開のなかで幾度も少年時代へとシーンが飛ぶ。
大きくなったケンヂにとってはうる覚えでしかない、小学校高学年から中学1、2年のころまでに起こった数々の出来事が重要な意味を持つことに気づくようになるのは、周囲で起こるある一家の失踪や幼なじみの死というきっかけによってである。
やがて秘密基地でケンヂが書いた「よげんの書」のとおりのことが起こりはじめ、これに関連する中心的人物は「ともだち」とよばれていることを知る。
はじめは小さな新興宗教団体の様を呈していた「ともだち」とその信奉者たちはやがて友民党(友達民主党)を組織し、強大な政治的権力を持つようになる。
いちはやく「ともだち」の危険性に気づいたケンヂと数人の仲間たちは、テロを阻止しようと立ち上がるが、コンビニエンスストアを営む青年ケンヂは「血の大みそか」のテロの首謀者「世紀の大悪人」「悪魔のテロリスト」として後の教科書に載ることになる。
そうして物語は続いていくのだがここでは、ほとんど話題になっていないけれども注目すべきポイントに絞って話をすすめることにする。
■ 漫画におけるカンヌで受賞の意味
「20世紀少年」はその壮大な物語の魅力と、なにより「ともだち」の正体はだれかのか? という強力なサスペンス(読者の興味を宙吊りにしたままにしておくという意味)の効果を発揮して話題になり、人気漫画へと発展していった。
日本国内で多くの漫画賞を受賞しているが、注目すべきは海外のアングレーム国際漫画祭の最優秀長編賞を受賞していることだ。
これは1974年よりフランスで開催されている、ヨーロッパ最大級の漫画イベントで、漫画におけるカンヌとも言われている。
海外で日本の漫画やアニメの人気は高く、特にフランスでは高い人気と関心を持つ人々が多いことを考慮しても「20世紀少年」がアングレーム国際漫画祭の最優秀長編賞を受賞したことには、作品を読み解くおおきなヒントがある。
欧米社会を理解するにはキリスト教の知識が必要といわれるが、そのなかでもフランスは歴史上キリスト教の影響抜きには語れないほど深い関係がある。
キリスト文化のお膝元ともいえるヨーロッパ、それもフランスで漫画におけるカンヌともいわれる賞を受賞した理由のひとつは「20世紀少年」になんらかのキリスト教文化の片鱗をみることができるからではないか。
片鱗といったが、実は「そのまんま」といってもいい。
おそらく「20世紀少年」とキリスト教文化の関係を論じる人やサイトなどをみかけたことは、まずないだろう。
「崖の上のポニョ」の監督はわざわざ「キリスト教色を払拭して」とコメントしたが「20世紀少年」の原作者はキリスト教について何もコメントしてないようである。
しかし見方にによってはそれがあまりにもわかり易すぎて、あえていうまでもないからコメントしないとも推測できる。
■ ケンヂの死(と思われていた)と復活
ウィルスによる世界滅亡計画は終末や世の終わりを象徴するし、ケンヂがその身をもってテロを阻止するため命を投げ出そうとして、後に生きていたことがわかるのは、イエス・キリストの死と復活のイメージそのままである。
そもそもケンヂはコンビニエンスストアの経営者だ。コンビニの本部の人間にもっと売り上げを増やさないとアカンぞ、と尻を叩かれる毎日だ。
イエス・キリストは世的(この世、現世という意味)には、ナザレ村の大工のヨセフの息子だ。
どこにでもいるコンビニ経営者や、どこにでもいる大工の息子が、その活動がどんなの正しくすばらしいものであればあるほど、それをよく思わない者たちがいる。
ケンヂは悪魔のテロリストとされ、イエスはユダヤの教えを守らない罪人とされた。
■ 歌=言葉
死んだと思われていたケンヂが実は生きており、ギター片手に歌を歌って辺境の地で伝説となっていくのは、歌にのせた歌詞=言葉、聖句によって教えを広めていくキリスト教の広まりとも重なる。
ケンヂの幼なじみのコンチは、北海道のラジオ局DJをしながらケンヂの歌を流し続けており「曲・歌=言葉」がじわじわと広められていく様子は、イエスの弟子や使徒たちの伝道活動をイメージさせる。
ケンヂの歌によって動かされる人々の存在は権力者によって脅威のもとになるので、友民党と地球防衛軍はこれを押さえ込もうとする。
そういった流れはもとより、やはり「歌=言葉」を「聖書の言葉」「聖句」ととらえるならば、ヨーロッパからアメリカ大陸へキリスト教が広まっていった歴史と重なることがよくわかるだろう。
■「よげんの書」の「よげん」が「ひらがな」のワケ
また「よげんの書」の「よげん」はひらがなである。これは小学生が書いたものだからと思っていないだろうか?
だがもしこれが「予言の書」ならば小学校高学年の少年にとって「予言」という漢字はそんなに難しいものではないのだから、漢字で書かれていてもおかしくはない。
しかし「よげん」とひらがなで書かれているのは、そこに「予言」とも「預言」とも解釈できる余地を残していると考えられるのだ。
いうまでもなく「預言」とは聖書では神の言葉を人々に伝えるという意味で使われることばであり、旧約時代のイスラエル民族の霊的な指導者を指して「預言者」というのはよく知られたことだ。
その「よげんの書」をつくったときに秘密基地にいたケンヂの仲間たちは、ケンヂが死んだとされていた期間にも地下にもぐるなどして「ともだち」の組織とたたかっていた。
彼らは迫害を逃れようと地下や洞窟にもぐったキリスト教徒、それも聖書の言葉を中心として大事にする聖書主義者たちを彷彿とさせる。
キリスト教史における聖書主義者たちは世の表舞台に出ることを避けていたから、ケンヂの仲間たちのようにたたかっていたというのは適切ではないかもしれないが、信仰を守るためにたたかっていたという意味ではそこそこ合っている言い方だろう。
■ 皇帝が上か、教皇が上か
「ともだち」がつくる友民党はその教理といった性格のものに合わない者を次々と「絶交」していく。つまり死においやるのだ。
また数々の教理をつくり、やがて世(現世)の権力者・支配層と密接な関係を持つようになるとくれば、キリスト教史ではカトリックということになる。
そして「ともだち」は世界を支配するためには宗教、それもキリスト教の力を利用することが一番だと考えたようだ。
「ともだち」はローマ法王を守るという自作自演によって、ローマ教会をも手中におさめようとする。ともだちはこれよにって世界大統領になる。
皇帝が上か、教皇が上か。これは時代と地域によってそれぞれ入れ替わるのだが、皇帝と教皇は権力をめぐって対立することはたびたびあった。(例:カノッサの屈辱)
そういった歴史をみても、世界最高の権力者になるには、キリスト教の権力者を手中におさめなければならないというのだろう「ともだち」はローマ法王を守るという芝居をうつことによって、武力ではなく策略によって自分の権力を世界最高のものとする。
■ 奇跡か、策略か
策略というのがポイントだ。「ともだち」が信奉者を集め始めたばかりの初期の頃は、仕掛けのあるマジックを使って奇跡を起こしたと聴衆に錯覚させて人気を集めていた。
そしてのちに仕掛けのある策略によって世界大統領になる「ともだち」。
一方のケンヂはどこにでもいるコンビニの経営者。奇跡どころかマジックの心得だってない。
■ 運命の子、最後の希望
ところが「20世紀少年」の第二の主人公でもある遠藤カンナはケンヂの姪で、コンビニを経営したいたケンヂが背中におぶっていた赤ん坊である。
彼女はやがて「運命の子」「神の子」「最後の希望」「氷の女王」と人々に呼ばれる存在になる。
運命の子、神の子、最後の希望、氷の女王とくれば、もうそのまんまである。
遠藤カンナは女性だが「ダ・ヴィンチ・コード」や「ナルニア国物語」でお馴染みの、キリスト教や聖書に関する物語では女性が重要な役割を持つキャラクターとしてよく登場することをおもえば、むしろ女性は定番といっていいだろう。
さらに彼女には予知能力らしきものもある。勘の鋭さだけでは説明できないその能力によってカリスマ化していく彼女のほかにも、ホームレス仲間たちから一目置かれ、神様とよばれる神永球太朗は予知夢をみる。予知夢によってケンヂやケンヂの仲間たちを助けるのだ。
夢によって正しい道へ導くといえば、イスラエルの夢見る指導者ヨセフが有名だ。ヤコブの息子でエジプトの宰相にまでなったヨセフである。
このようにザッとみただけでも、キリスト教文化の影響を云々というより、欧米の人々が読めば「アイ・アム・レジェント」とおなじように、とてもわかりやすく「そのまんま」なのがおわかりいだけただろう。
■ 漫画におけるカンヌで賞を受賞の背景か
だからこそフランス人にもわかりやすい。だからスッと物語が頭に入ってきて、これを日本人の漫画家が描いたなんてスゴい! ということになったんじゃないだろうか。
フランス人にかぎらず欧米の文化人たちは日本の文化に興味をもっていて、それは日本の民間伝承や風習にも及ぶ。そういったことからも、アングレーム国際漫画祭では、日本のお化けや妖怪を題材とした水木しげる「のんのんばあとオレ」が受賞しているが、遠い島国の漫画作品にまさかキリスト教文化そのままとも読みとれる壮大な物語を描く作家がいるとわかって、たいそうおどろいたのではないか。
名の知れた漫画家、小説家、脚本家、映画作家といった人々の多くは、世界中の歴史や物語を知って研究していることからも、どうしても物語づくりのなかにキリスト教文化の要素が入り込んでくる。
それはいたしかたないというよりも、そういうものであり、むしろそうであることが普通といってもいい。ごくあたりまえのことなのだ。
しかしながら近頃日本で話題になる作品、たとえば「崖の上のポニョ」や「20世紀少年」にこれほど顕著に、わかりやすいかたちで表れすとは……これが時代の流れというものか。
宮崎駿監督はわざわざ「崖の上のポニョ」で「キリスト教色を払拭して」と言及したが、そんなことを言わなければ、日本国内ではまずだれにもキリスト教との関連をいわれることはなかっただろう。
「キリスト教色を払拭して」と言及しても、キリスト教文化との関連をある程度まとまったかたちで語っているのは私のほか数名の方々だけなのだから……。
まして「そのまんま」とも読み取れる「20世紀少年」についてキリスト教文化の関係を論じる人やサイトなどはほとんどみかけないのだから、解読や解釈にちょっと工夫とコツが必要な「崖の上のポニョ」ならなおさらだ。
■ 海外で日本の漫画やアニメが高く評価されるワケ
漫画やアニメというのは日本国内よりも海外で高く評価されることがよくあるが、それは単に日本の漫画やアニメが緻密な世界観を持っているからだけではなく、優れた漫画家やアニメ作家は優れたストーリーテラーであり、そこには必然的にキリスト教文化が織り込まれるからにほかならない。
そうした海外での高い評価の意味を吟味することなしに、海外で高く評価されたからスゴい! といって宣伝にのせられて原作を読んだり映画化された作品を観ても、いまいちたのしめないことがあるだろう。
映画化された「20世紀少年」の第1作の公開時はたいそうな宣伝が繰り返しテレビでなされていた。
映像化不可能といわれていた作品がついに映画化というふれこみだったが、原作漫画を読めばこれは映像化には向かないようだと感じるのはもっともなことだろう。
映画化、それも3部作ともなれば、必然的にそれぞれの作品が公開されるまでにタイムラグが生じる。
約半年ごとに公開しても1年半かかる。ブームの発生と消滅の期間が短くなっているこの時代、1年から2年もの間ブームの熱を保ちつづけることはむずかしい。
映画「NANA」はこのタイムラグをうまく処理できなかった。「デスノート」と「海猿」は工夫してこのタイムラグをうまく処理した。
では「20世紀少年」はどうだろう。
■ おすすめは原作漫画一気読み
「20世紀少年」を原作漫画で読むことをおすすめする。それも一気読みで。
登場人物が多く、ちょくちょく少年時代に話が飛ぶので、一気に読まないとだれがだれだかわからなくなりそうだからだ。
それに一見すると話の本筋とは関係なさそうな登場人物が登場して話が展開していくが、実はそれぞれの点と線が一点に集約していくたいへん高度な技術を多数使っているのだが、そのために、もし途中で読むのを止めてしばらく経ってしまうと、この話どこがどうなってるんだっけ? ともなりかねない。
原作漫画一気読み。これがベストな楽しみ方だ。
ちなみに「20世紀少年−第2章−最後の希望」は2009年1月31日公開予定である。






キリスト教との関わりですか。確かにそこを論じているブログなどは今までに読んだことがありませんでした。
キリスト教に関してはあまり詳しくないですが、なるほど〜!って感じです。
おもしろい記事をありがとうございました。
マンガのレビューは書いてないので、映画のレビューのTBで失礼いたいます。
なるほどね。
ナルニア国物語みたいに、最初からキリスト教の話だと思って見ると、そう思って見るのですが、言われてみると、そうだよなあと、いちいち納得しました。
浦沢直樹が、それを意識して書いてたと言うようなことは聞いたことはありませんが、それほどイエスの物語は、普遍的なのかもしれませんね。
勉強になりました。
コメントありがとうございます。
楽しんでいただけたようでよかったです。
また寄ってみてくださいね。
コメントありがとうございます。
浦沢直樹さんが特に意識して描いたかどうかはわかりませんが「MONSTER」なんかはヨーロッパが舞台ですし、少なからずキリスト教文化と触れる機会はあるんじゃないかと思います。それが20世紀少年の物語の構成にすこし影響があったのかもしれません。また寄ってみてくださいね。
いつも応援ありがとうございます☆
中里さんも風邪などひかないようがんばってくださいね。
このたび漫画に関するブログを立ち上げましたので、
よろしければ遊びにいらしてください。
好きなマンガは少年漫画〜青年向けコミックまで幅広いので、
自分が気に入った作品はどんどん取り上げていきたいと思います。
よろしくお願いいたします。
サラリーマンのおすすめ漫画レビュー
コメントありがとうございます。
漫画ブログをチラッとですが拝見しました。「寄生獣」私も読みました。テーマや題材がとても深いですよね。漫画の世界で「寄生獣」がどのくらいの人気や評価をされているのかわかりませんが、もっと注目されてもいい作品だとおもいます。
ではでは、こちらこそよろしくお願いいたします☆