2008年07月11日

ヒストリー・オブ・バイオレンス(A HISTORY OF VIOLENCE)


「ヒストリー・オブ・バイオレンス(A HISTORY OF VIOLENCE)」

監督:デイヴィッド・クローネンバーグ
アメリカ・カナダ/2005年/96分

B000GIWLRGヒストリー・オブ・バイオレンス
ジョシュ・オルソン
日活 2006-09-08

by G-Tools


●聖書のたとえ話「放蕩息子」をモチーフに「愛」を描くサスペンスミステリー。家族や友から離れた者が再び戻ってきたとき、それを受け入れることができるか。ヴィゴ・モーテンセンの演技が凄い。

ストーリー(概要)
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米インディアナ州の田舎町。ある晩、トムが経営するダイナー(食堂)が拳銃を持った二人組みの強盗に襲われる。
素早い身のこなしで強盗を倒し、店の従業員と客を救ったトムは、一躍全米のヒーローとなる。
そんなある日、店に男がやってきた。男はトムをジョーイと呼び、一家につきまとうようになる。
やがて家族に危機が迫り、トムの妻エデが夫の過去を知ったとき、それまで愛と信頼に包まれていた家族の暮らしが崩れていく。


主な登場人物の紹介
―――――――――――――――――――――
△トム・ストール
 男性。田舎町のダイナーのオーナー

△エディ・ストール
 女性。トムの妻。弁護士。

△カール・フォガティ
 男性。マフィアの構成員

△リーチー・キューザック
 男性。マフィアのボス。

△ジャック・ストール
 少年。トムの息子。

△サラ・ストール
 少女。トムの娘。


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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●聖書のたとえ話「放蕩息子」をモチーフに「愛」を描くサスペンスミステリー。家族や友から離れた者が再び戻ってきたとき、それを受け入れることができるか。ヴィゴ・モーテンセンの演技が凄い。

■ 巧みなセットアップ

作品の冒頭、男二人がモーテルを出発する長回しのシーンがある。
ひとりの男は、ダルそうにこんな意味のことを言う。
「こんな毎日にマジでうんざりだぜ」。
もうひとりの男は、おれだってそうだ、といったふうに答える。

このセットアップの冒頭シーンで読み取るべきキーワードはこれだ。

「田舎(中西部のインディアナ州)」「暑い」「田舎を点々とする毎日にうんざり」

つまり、男二人は毎日にうんざりしているということだ。これは主人公トムの過去の心情の一部をあらわしてるといっていいだろう。
昔はこの男たちとたいして変わらない心情で毎日を過ごしていた男が、その後どうなったのか。それを観客に予測させる予告編の役割をも持っているのがこのセットアップ(冒頭シーン)なのである。


■ 故障中の車はトムの心情を表す

トムは自分の車が調子悪いので、妻に車で職場(ダイナー)まで送ってくれと頼む。妻はもちろんよと答えて仲良く出勤する。
トムが住む町はインディアナ州の田舎町だ。当然のように車はひとり一台ないことには不便である。

アメリカ合衆国は車社会だからアメリカ人はみな車を持っていると思いがちだが、もちろん車を持っていない人もたくさんいる。だがアメリカ合衆国に限らず日本でも、一部の都市部を除くほとんどの地域では車がないと不便だ。とくに田舎では車は下駄代わりである。

というわけで、トムには自分専用の古いピックアップトラックみたいな車があるのだが、エンジンの調子が悪いらしく故障中だ。すぐにでも直せばいいのだが、トムは急いで直そうとはしていないようだ。いざとなれば歩いて職場までいけるし(おそらく徒歩1〜2時間程)、とりあえずは愛する妻の車に乗せてもらえばいい。

つまり、トムは自分の家と職場のある街へ行き来できればそれでいいのだ。ほかにどこへ行く予定もないし、ほかのどこかへいくつもりもない。
これはトムがこの街で愛する家族と共に素朴でも幸せな生活をいつまでも続けたいという思いを表しているのである。

また、ダイナーにいたトムが胸騒ぎがして家族を守るために急いで家に戻る際、怪我をした足で家まで走るのだ。。車が使えないから走るしかないのだが、このシーンはトムがいかに家族を大事に思っているかを動き(アクション)で表現する演出効果を狙ったものだろう。

しかも、走って家についてからの演出もしっかりしている。街からずっと必死に走ってきたので、汗だくなだけでなく、呼吸がゼィゼィとなってうなく話せない。それでも家族の安全を確認して事情を説明しようとするのだが、呼吸が苦しくてソファに座ったまましばらくはまともに話せない有様なのだ。

そんなになりながらも必死に走りつづけて(足を怪我しているのに)帰ってきたトムの姿に、観客は過去の冷酷な男から家族思いの男にほんとうに変わったことをいつのまにか受け入れてしまうのである。これはリアルかつ感情移入というダブルの効果がある演出法である。

ちなみにトムは自分の車をいつ使うのか。それは自分の過去に立ち向かうべく出発するときに使うことになるのである。


■ 10代の頃に出会いたかった

トムと妻のエディの夫婦関係はとても良好だ。ふたりはいわゆる「ラブラブ」である。
エディはトムに、あなたと10代の頃に出会いたかった、という意味のことを言う。これは、いったいいままであなたはどこにいたのよ、もっと早く私をみつけて早くから私の側にいてくれたらよかったのに(実際は10代の頃には出会えなかったのだが)、という英語の授業の仮定法の例文に出てきそうな心情をあらわしたセリフがある。

エディにとってトムとのマッチングは最高なので、出会いというタイミングがもっと早かったら最高の日々をもっと早くから送ることができたのに、という思いが詰まったこの言葉は、二人の愛の深さと相性の良さを観客に素早く感じ取ってもらう言葉の演出だ。

そしてこのセリフのあと、二人の子供の「おかん」であるエディは、ハイスクール時代のチアガールの衣装を着て夫の前に登場するのである。
こうしてセリフ(言葉)とアクション(行動)でて夫婦の仲の良さを知らせると同時に1回目のセックスシーンによって、後の2回目のセックスシーンとの対比を通して夫婦関係の変化を表現する布石にもなっているのである。


■ 過去を知っても受け入れられるか〜放蕩息子の例え〜

田舎町ではトムはみんなから慕われる良き人である。ダイナーで強盗を倒して従業員と客を救ったことで、ヒーローとしてますます町の人々に愛されるようになる(店のお客も増えた)。

しかし、トムがかつて強盗やマフィアだったとしら?
たとえそれが過去のことであり、今は良き父であり良き夫であったとしても、妻は彼を受けれることができるのか。
さて、新約聖書にはキリスト教圏で生まれ育った者は一度は聞く放蕩息子のたとえ話がある。(ルカによる福音書第15章11節〜32節)

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あるところに二人の兄弟がいた。弟が父親から財産の半分をもらうと遠いところに行って放蕩に身を持ちくずして財産を使い果たしてしまった。飢饉が襲って食べることにも窮して豚の世話人になり、豚の餌で腹を満たしたいと思うほどになって本心に立ち返り、父の元に戻り、雇い人のひとりと同様にしてもらう決心をする。
父はまだ遠く離れているのに彼をみとめ、走り寄ってその首を抱いて接吻した。こうして盛大に祝宴がはじまったのであった。
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「放蕩(Prodigal)」には、むだづかいする、浪費するといった意味のほかに「家族や友から離れていたものが戻ってくる」という意味がある。

妻エディが出会ったトムは良き人だったが、実は過去にマフィアの一員だったことがわかる。

放蕩息子の話では、父親は神をあらわし、放蕩息子は人間をあらわす。エディは人間なので「放蕩息子の話」での父親のようにまだ遠くに離れている息子(トム)をみとめ、走り寄ることはできない。

作品のラストシーン。ダイニングのテーブルで夕食をとるエディ、息子ジャック、娘サラ。そこへ戻ってきたトムが家に入ってくる。
果たしてジャックは、サラは、そしてエディは、自分の過去に立ち向って後に家に戻ってきたトムを受け入れることができるのか。

このエンディングは監督らしさが出ているといえるが、確かなことは、ありきたりなハリウッド映画のエンディングとは違うものとなっているということだ。

夕食。父親がかえってくる。この何気ない日常のシーンをじっくと観せてくれる作品はなかなかない。
派手な映像ばかりが映画ではない。何気ない日常のふとしたシーンをいかに劇的にできるか。それが映画の醍醐味である。

ちなみに、何気ない日常のシーンを小道具を用いて劇的する試みがみられる作品はこちら。
(だたし、この↓作品の効果は、頭で考えた仕掛けの粋を出てはいない)

「愛してる、愛してない...(A la folie…pas du tout…)」作品レビュー
http://plain-story.cocolog-nifty.com/ps/2004/05/a_la_foliepas_d.html


■ ひとこと

主人公トム・ストール役の俳優は『ロード・オブ・ザ・リング』で正義の勇者アラゴルン役だったヴィゴ・モーテンセンだ。
「ヒストリー・オブ・バイオレンス」での彼を観ていると、真の役者とはこういうものか! と鳥肌が立つすごい演技をしている。トムの表情とジョーイの表情。こういった変化の演じ分けが見どころである。


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