2008年07月11日

スタンドアップ(North Country)

「スタンドアップ(North Country)」

監督:ニキ・カーロ
アメリカ/2005年/124分

B000F1IP38スタンドアップ 特別版
グスターボ・サンタオラヤ マイケル・サイツマン
ワーナー・ホーム・ビデオ 2006-06-02

by G-Tools


●父と娘。母と息子。シングルマザーがけっしてめずらしくないコミュニティにあって、主人公ジョージーが10代でシングルマザーとして子供を産んで育てる決心した真の意味を知ったとき「感動」という波が押し寄せる。人生を描く骨太硬派作品。キリスト教とシングルマザー。

ストーリー(概要)
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北ミネソタ。シングルマザーとなった女性が鉱山で働きはじめる。男性社員たちからいやがらせを受けるが、娘として、母として、そしてひとりの人間として立ち上がる。


主な登場人物の紹介
―――――――――――――――――――――
△ジョージー
 女性。2児の母親。

△グローリー
 女性。ジョージーの友人。仕事の同僚。


コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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●父と娘。母と息子。シングルマザーがけっしてめずらしくないコミュニティにあって、主人公ジョージーが10代でシングルマザーとして子供を産んで育てる決心した真の意味を知ったとき「感動」という波が押し寄せる。人生を描く骨太硬派作品。キリスト教とシングルマザー。


■ キリスト教とシングルマザー

ドメスティックバイオレンス(家庭内暴力)から逃れて二人の子供を連れて北ミネソタの故郷に戻ってきたジョージーが地元の教会に足を運ぶシーンがあります。会堂の椅子に座っているジョージーのほうを年配の女性がチラチラと視線をやります。ジョージーの目のまわりは黒くなっていて、殴られたであろうことは想像がつきます。年配の女性の視線はいわゆる「出戻り」を見る「世間の目」というものですね。

そして教会では聖体拝領らしきことが行われています。ということは、おそらくそこはキリスト教のカトリック教会なのでしょう。ミネソタ州民の多くはプロテスタントですが、カトリックのコミュニティに属する人々も一定数います。

ジョージーの実家が属するのはこうしたカトリックのコミュニティです。
そして「アメリカの冷蔵庫」の異名があるほど寒いミネソタ州の北部のこの町は、鉄鋼業で成り立っています。

つまり、町の人々の多くはカトリックで、炭鉱関連の仕事をしているのです。こうした狭いコミュニティの中にあってジョージーがシングルマザーであるのはカトリック社会ではけっしてめずらしくありません。

なぜならカトリックは中絶反対の立場をとっているからです(ちなみにブッシュ大統領もカトリックなのでこの立場です)。


■ 父と娘

ジョージーは10代でシングルマザーとなりました。シングルマザー自体はカトリックコミュニティではけっしてめずらしくないのですが、そうはいっても父親がだれかもわからない子供を産んだのですから、父親としては悲しさを通り越して怒りに近い、どうにもやり場のないような感情が沸き起こります。

実は10代でシングルマザーになったというところが作品の肝なのですが、これによってジョージーは父親とうまくいっていません。

父親にとってれば、出戻ってきた娘が今度は自分と同じ職場の炭鉱で働くと言い出したのです。町の唯一の産業といっていい炭鉱は男達の職場であり、仕事によって支えられる男のプライドの唯一の拠り所でもあります。

作品の中でこんなかんじのセリフがあります。女には仕事がなくても子供という生きがいがあるが、男から仕事をとったら何も残らない――。炭鉱がすべてといっていい町にあって炭鉱で働くことは男にとってそれがすべてといっていいでしょう。

その男の領域(と男たちは思っている)に自分の娘が入ってきたのです。男性社員(労働者)たちからいやがらせを受ける娘の姿を見なければならない父親の気持ちを想像するのは容易ではありません。


■ 子供を産んだ真の意味

10代で妊娠したジョージーは、その経緯からすれば(詳細は省く)普通ならば産みたくないと思うでしょう。そにもかかわらず産んだのはなぜか。一般的な見方でいうなら、ジョージーの家族はカトリックコミュニティに属しているのだから(カトリックは中絶反対の立場)産んだ、というように周りからは思われることでしょう。

つまり、父親が誰かもわからないにもかからず、ジョージーの家族はカトリックだから、その宗教的立場から娘に中絶させることはできなかったので産ませた、というように思われているということです。

しかし、ジョージーは妊娠しているときにふと気づくのです。その「気づき」によって子供を産んで一緒に生きていくことを決心するのです。

この流れが映画の中で明らかになったとき、寒空の中、いなくなった息子を家の外で待つジョージーの姿にあなたは涙せずにはいられないでしょう。


■ ほんのちょっと想像してみるだけで感情が動く

作品を観ながら明らかになってくる父と娘の関係。そして母と息子の関係。それをふまえてジョージーの気持ちをちょっと想像してみるだけで、こみあげてくる感情があります。これを「感動」というのでしょう。


■ 夫婦愛とは?

ジョージーの女友達のグローリーは炭鉱で働き、組合の役員もしています。男達も彼女のことを認めて一目置いています。そんな彼女は病気になり、やがてほとんど動けなくなります。

グローリーの夫は腰を痛めたために炭鉱を辞めて家にいます。炭鉱がすべての町で、炭鉱で働けない男は自尊心をどう保てばいいのか。自分が働けないときも妻は大型トラックの運転手をしながら組合の役員としても活躍していました。並大抵の男だったら自尊心が保てずにアルコールに逃げて荒れるかもしれません。しかしグリーリーの夫は1日の大半を地下室で古い腕時計を修理して過ごしています。

やがてグローリーの病気が進行して彼女が動けなくなってきたとき、夫がごく自然に妻にキスをするシーンがあります。それをジョージーがそっと垣間見るというシーンです。

このシーンに「夫婦愛とは?」の答えが詰っているように思いました。


■ 白人社会はアメリカ合衆国を風刺?

ミネソタ州の人口における人種の割合では約9割近くが白人(ドイツ系と北欧系)です。
白人社会の中の男優位社会とくれば、これはアメリカ合衆国のことを暗示しているようでもあります。

アメリカ合衆国の主要なポストで優位にいるのはいわゆるワスプ(WASP)といわれるアングロサクソン、プロテスタント・ドイツ系です。

マイノリティがマジョリティに屈することなく立ち向かうというのは物語の典型のひとつでもあります。


■ ひとこと

原題は『North Country』
ハワイ州とアラスカ州を除いたアメリカ合衆国の48州のなかで最も北にあるのがこの作品の舞台のミネソタ州です。炭鉱の町はミネソタ州の中でも北部に位置します。

そういえばミネソタ州出身のコーエン兄弟の作品「ファーゴ」でも雪に覆われた北国が舞台でした(ファーゴはノースダコダ州の都市)。

ジョージー役のシャーリーズ・セロンは幼い頃、酒癖の悪い父親の家庭内暴力にあっていたそうです。そして彼女の母親が父親を射殺する悲劇が起きています(母親は正当防衛が認められた)。夫の暴力のために二人の子供を連れて家を出て故郷に帰ってきたジョージーとは偶然なのかつながるところがありますね。

「女性」がテーマの映画というよりも、人が生きていく様をみせてくる骨太で硬派な作品です。

はじめは、なんてひどいお父ちゃんなんでしょう! と思いましたが、作品の終わり頃にはお父ちゃんが映っただけで涙です。

性別問わず、オススメです! 


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