2008年07月10日

ラストサムライ (THE LAST SAMURAI)

「ラストサムライ (THE LAST SAMURAI)」 
     
エドワード・ズウィック監督/2003年/アメリカ/154分

ラス
ト サムライ 特別版 〈2枚組〉
ラスト サムライ 特別版 〈2枚組〉

●異文化に触れ、人との出会いを通して立ち直っていく男の物語。米主要紙が「ラストサムライ」にきびしい批評をしている宗教的意味とは?

〔1〕テーマ(Theme)
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武士道精神


〔2〕ストーリー(Story) 
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明治維新直後の新政府軍隊に西洋式訓練をするために日本にやってきたネイサン大尉は、反乱軍との戦いで負傷し、敵・勝元に捕らえられる。

勝元の村で一冬を越すうちにネイサンは武士道精神に触れる。南北戦争で負った心の傷や苦悩の日々から解放され、魂の安らぎを感じるネイサンは、やがて勝元に味方して武士道精神を貫こうと決意し、新政府軍と戦う。


〔3〕Main Character(主な登場人物)
―――――――――――――――――――――
△ネイサン・オールグレン大尉
 アメリカ南北戦争の英雄

△勝元盛次
 士族の長。元明治新政府参議。忠義を尽くして名誉を重んじる侍。

△氏尾
 勝元傘下の腕の立つ侍。ネイサンを敵視するが、やがて盟友
 と認めるようになる。

△たか
 勝元の妹。負傷したネイサンを看病する。

△バグリー大佐
 南北戦争時のネイサンの上官。インディアン(ネイティブアメリカン)
 討伐を指揮した。

△大村
 財閥を持つ明治新政府参議。勝元と対立。


〔4〕・1キャラクター・ディベロップメント〜メインキャラクター〜
―――――――――――――――――――――
(主人公については、観客が後に従い、応援し、感情移入する人物が望ましい)
 
○ネイサン・オールグレンについて。観客を惹きつける魅力〜弱さ〜(3つ)

〈1〉南北戦争の英雄だが、戦後はウィンチェスター社[※1]の宣伝活動の客寄せをしている。

〈2〉南北戦争時、インディアン討伐作戦で、非戦闘員ばかりの村を襲えとの上官の命令に抗することができなかった自分を悔いて苦悩している。

〈3〉そのため、いつも飲んだくれている。


〔5〕Comments(論評、批評、意見)
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●異文化に触れ、人との出会いを通して立ち直っていく男の物語。米主要紙が「ラストサムライ」にきびしい批評をしている宗教的意味とは?

セットアップで主人公ネイサンの紹介(現状)がなされる。南北戦争の英雄であるネイサンは戦争により心に傷を負い、酒浸りの日々を送っている。家族については一切触れていない。これは注目すべき点だ。というのはハリウッド映画においては「家族」が重要な要素のひとつだからだ。

例えば「家族をマフィアに殺された男がたった一人で復讐を果す」といっったものだ。こうしたログライン(ストーリーを述べてある一文)を目にしたことはよくあるだろう。

ネイサンの家族について一切触れていのはななぜか。そこにはどんな狙いがあるのか。

それは「武士道精神」というテーマをより一層強調するためである。

ハリウッド映画でありながら精神的拠り所=「HOME」(単に建物としての家を意味するのではなく、自分と自分が属する家族や親戚、友人、仲間が集まる、精神的な安らぎを得られるところ)を持たない人間としてネイサンが登場する。

そうすることで、「HOME」とは違った精神的拠り所を描きたいという狙いがあるのだろう。描きたいのは「武士道精神」である。

ストーリーの型は、ロードムービー型(主人公が旅をする)、またはグランドホテル型(主人公がある空間に来る)だ。
 
それは、人生の指針を失った男が旅に出る。異国の人々に出会い、異文化に触れて感銘し、自分の生き方を見出す、といったものだ。

欧米には、アジアの秘境、東洋の神秘、といった異国への興味がある。それは、ものめずらしさからくる興味もあるが、一方で「理想郷」を求める気持の表れでもある。理想郷への想いは欧米に限ったことではなく、広く世界中にみることができる。

かつて自分たちがもっていたが今は失われてしまった「美徳」を、異国・異郷の地に求める。単なるものめずらしさや好奇心で異国の文化・風習を眺めるだけでなく、じっくり腰を据えて、時には異国の人々と生活を共にする。するといままで自分になかった考え方や視点を得て精神的(心)な安らぎを感じる――。

欧米諸国ではこうした、精神的な安定や心の安らぎの拠り所となる役割を担ってきたのは主に教会(キリスト教文化)である。

「ラストサムライ」はこうした欧米的なバックグラウンド(キリスト教文化)とはかけ離れたところを描いている。そのためか、米主要紙は『ラストサムライ』にきびしい批評をしている。
(AFI[※2]では2003年映画ベスト10に入っている)

そういった意味で、ハリウッド映画ならではのわかりやすいログライン「心に傷を負って失意と悔いのなかにある男が、人との出会いで自分の生き方を見い出す」でありながら、以下の4つ理由で、かなり異色のハリウッド映画となっている。

〈1〉主人公ネイサンの家族につてのバックグランドが描かれていない。

〈2〉欧米的な精神的拠り所の主なものである教会(キリスト教文化)が基になっていない。

〈3〉日本の武士道精神がテーマになっている。

〈4〉アメリカ合衆国以外の人々についても、自らの価値観を持って生きよ、というメッセージを持っている。

ログラインはわかりやすいのだが、その核となる武士道精神というものをだれにでもわかりやすく描くというのはなかなか難しい。日本人でさえ武士道精神とはなんぞやとすぐに答えることができる人はそうはいないだろう。

エドワード・ズウィック監督とトム・クルーズはともに黒澤明監督作品が好きだという。日本文化に対する興味や造詣が深い二人が真面目に撮ったサムライ映画だ。そのため日本人が観ても特に違和感を覚える個所はない。

だが、敢えて挙げるとすれば以下の3つである。

〈1〉忍者集団の雰囲気が、戦国時代(安土桃山時代)っぽい。

〈2〉勝元の軍が鉄砲を一丁ももっておらず、武器は弓と剣と槍というのは、わかりやすくするためにかなり大雑把な設定にしたとみえる。

〈3〉ガトリングガン(ハンドルを回して連射する機関銃)が新政府軍側に2〜3台登場する。しかし明治維新後の戊辰戦争期でも日本には3門しか入ってきていない。一門は日本初の装甲軍艦であるストーンウォール(甲鉄)号に設置。蝦夷政権成立時にはストーンウォール号は新政府軍側に。その後、世界初、軍艦で使用(宮古湾海戦・土方歳三隊が襲撃)した。ほか2門は越後長岡藩の家老・河合継之介が横浜で購入して、長岡の戦いで山形有朋を敗走させた。中古品のため故障が多かったという。

しかしながら以上の3点については特に気になるほどのことではない。なぜなら『ラストサムライ』は忠実に史実に沿ったという性質の作品ではないからだ。
 
ハリウッドの一流スターであるトム・クルーズは自分が感銘を受けたり興味ある企画には役者として出演するだけでなく製作にも関わる。

ハリウッドスターとしての地位が確立した後は、自分の興味のある作品に関わることができるのだ(例えばマカロニウェスタンで名を馳せたクリント・イーストウッドは、スターとなってから自ら監督・主演する良質な作品を撮っている)。

『バニラ・スカイ』『マイノリティ・リポート』といったトム・クルーズ主演作品はアメリカ合衆国より、日本のほうが評判になりヒットしたようだ。

日本は大きなマーケットであり、トム・クルーズの思い入れの強いこれらの作品がアメリカ合衆国よりも日本でヒットしたとなれば、ますます日本文化への興味や愛着心も湧いたことだろう。

『サストサムライ』は日本人が観て悪い気はしない。それどころか、こんなにかっこよく撮ってくれるとは! と思うだろう。

異国の人間が撮ったサムライ映画は、日本人も気がつかなった新たな目線や視線を提供してくれる。そうした日本もまたひとつの日本なのだ。

普段よく知っていると思っているモノや事を違った視点で観ることができる。それも真面目に作った作品による視点である。これはすごいことである。

作品の最後のシーンで、ネイサンは明治天皇に訊かれる。「勝元はどう死んだか」――と。ネイサンは「どう死んだかより、どう生きたかを」――と答える。

そして明治天皇は参議・大村のいいなりになって外国と結ぼうとしてた条約を見直すことにする。

大村は財閥を持っており、日本のためといいつつ、私利私服を肥やすために外国に都合のいい条約(例・不平等条約)を結ぼうと画策する。勝元は、日本のためというなら財閥を解体して人民に分け与えよ、という。
大村はどこの世界にもいる、うわべで綺麗ごとを言いながら、既得権益を手放そうとしない人間の典型として描かれる。こうした者に関わらずに、自らの価値観や考え方をもって生きることの必要性を描いている。

こういったシーンについて『ティアーズ・オブ・ザ・サン』(※3)と比べてみよう。『ティアーズ〜』は典型的なアメリカ万歳プロパガンダ映画だ。

内線のナイジェリア。追われる身のナイジェリア王子が、親しい側近が戦闘で亡くなって悲しんでいる。そこでブルース・ウィルス演じるウォーターズ大尉が、国民のためにしっかり戦うんだ、と勇気づけるするシーンがある。

このシーンはまるで大人が子供を諭すかのように見える。強く正義の大人であるアメリカ合衆国が、ひ弱で頼りない子供を叱咤激励するといった様子だ。

こうした作品はアメリカ合衆国が戦争をはじめるとき等によく作られる。『ティアーズ〜』では叱咤激励の仕方が、大人が子供を諭してるようにみえる。

一方『ラスト・サムライ』では、ネイサンは日本の侍・勝元や氏尾から武士道精神を学び、それを自らのものとして決意・行動する。そういう流れを得て最後のシーンで、自らの価値観や考えをもって生きることの必要性を伝える。

ここにはひとりの人間としてのネイサンがいる。ひとりの人間として苦悩し、体験し、考え、決意し、行動した結果の言葉なのだ。

トム・クルーズ、渡辺謙、真田広之、小雪……と有名俳優が多数出演している。男性陣の存在感と格好良さはすでに多く紹介されているが、女優の小雪も、深く滲み出るかのような色気と心の内に秘めた力づよさがよく伝わってくる演技をしている。

『ラスト・サムライ』はテーマ(武士道精神)を基礎にして作った作品だ。テーマ(武士道精神)をネイサン・オールグレンというひとりの男のストーリーとして描いている。

なにかを伝えたいとき、それをストーリーの形で伝えると、わかりやすく伝わりやすい。テーマをストーリーの形でどうのように伝えようとしているか。といったことを意識して観てもよいだろう。

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※1 ウィンチェスター社
米銃器メーカー。1866年創業。アメリカ西部開拓史上有名なライフル、ウィンチェスターM73を生産する。

※2 AFI
アメリカン・フィルム・インスティテュート 
2000年に創立。アカデミー賞の選考に寄与することが目的。審査員は批評家やアーチストなど13人で構成されている。毎年、映画作品とテレビ番組のベスト10を順位付なしで発表する。

※3『 ティアーズ・オブ・ザ・サン(TEARS OF THE SUN)』
アントワン・フークワ監督/2003年/アメリカ/118分 アメリカ軍の救出部隊が難民を救う。
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